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イギリス総選挙とブレクジットの今後 [アメリカ・ヨーロッパ・ロシア関係]

先日実施されたイギリス総選挙。結果は保守党の圧勝となりました。
NHKのイギリス総選挙サイト

上記HPにも結果が記載されていますが、以下のようになっています。※()内は選挙前議席からの増減
保守党365(+67)
労働党203(-40) 
スコットランド国民党(SNP)48(+13) 
自由民主党11(-8) 
諸派・無所属23(-31)

保守党の獲得議席数は1983年以降のマーガレット・サッチャー政権下における保有議席数以来の大勝となりました。一方、労働党は1945年以降では過去最低の獲得議席となりました。労働党の敗北っぷりは深刻なもので、労働党が支持基盤としていたイングランド北部や中部を保守党に奪われ、スコットランドはSNPに奪われることになりました。また、かつてトニー・ブレア元首相の地盤だった選挙区も保守党に奪われました。その他の政党では自由民主党の代表がSNPに、北アイルランドの地域政党である民主統一党の院内代表はシン・フェイン党の候補者に敗れています。

また、今年10月末に労働党が議会に提出した「合意なき離脱」阻止法案に保守党から造反して賛成し、その後ジョンソン首相によって除名された21人も当落が分かれ、テリーザ・メイ政権で閣僚を務めたデイヴィッド・ゴーク氏は保守党が立てた対抗馬に敗れています。

ボリス・ジョンソン首相は就任当初から厳しい政権運営を迫られ、議会の閉会措置もあって非常に厳しい立場に置かれていました。しかし、今回の選挙の勝利によって政権基盤を固め、公約としていた来年1月31日のEU離脱を確実なものにしました。



今回の選挙結果の背景には何があったのでしょうか?
各党の投票率が前回(17年)総選挙と比べてどうだったのかを比較すると、保守党は+1.2p、労働党が-7.9p、自由民主党+4.2p、SNP+0.8p となっています。保守党がそこまで支持を伸ばしていない一方、労働党が大きく支持を落としています。つまり、保守党が大勝したというより、労働党が大敗したといえます。


今回の選挙で大きな要素となったのが「イギリス社会に蔓延したブレクジット疲れ」とも言える状況です。16年6月23日の国民投票以来、3年半にわたりイギリス社会と政治はブレクジットへの対応に奔走してきました。政治家だけではなく、国民の間でも離脱派と残留派の間で激しい対立が続くなか、政治がブレクジットにかかりっきりになってしまい、他の社会問題への対応に遅れが出ていました。こうしたなか、ブレクジットに関して各党が出したマニフェストは

保守党:先日決まった離脱協定案で来年1月31日に離脱
労働党:労働党政権で離脱協定案再交渉→協定案での離脱か残留かで国民投票
SNP:離脱か残留かで国民投票
自由民主党:国民投票なしで離脱とりやめ

↑こうなっていました。再度の国民投票に対して「何度国民投票をすればEUを離脱するのか、しないのかはっきりするのか」というウンザリ感が蔓延するなかで、混乱がしばらく続くであろう労働党の案が支持されなかったとみられています。


もう1つがブレクジットに対する労働党のスタンスが不明確だった点です。以前の記事(こちら)でも解説した通り、保守党も労働党も党内で離脱派と残留派が入り混じっていた。しかし、保守党はジョンソン政権が誕生して以降、10月末の造反者の除名などもあって、離脱派が主導権を握っている。一方、労働党は党内に離脱派、残留派双方を抱えており、ジェレミー・コービン党首も曖昧な態度を繰り返していた。こうしたはっきりしない姿勢が残留派、離脱派双方の労働党離れを加速させた可能性が高く、「労働党は伝統的地盤のイングランド北部・中部が保守党へ、スコットランドはSNPへ流れた」と言われています。


ここまで書くと「保守党は棚ぼたで勝利を獲得した」ように見えますが、もちろん決してそうではありません。ジョンソン首相は16年の国民投票で離脱派が多かった地域を重点的に周り、支持を獲得しています。実際に16年国民投票で離脱派が過半数を占めた選挙区のうち、75%で保守党が議席を確保しています。それに対し、労働党は残留派が過半数を占めた選挙区でも40%しか議席を獲得できていません。特に先程労働党の伝統的地盤とご紹介したイングランド北部と中部はその多くが離脱派が多数を占めた地域でした。


では、この選挙の結果を受けてブレクジットは今後どのような日程で進むのでしょうか?
イギリスは来年1月31日にはEUを離脱し、その後来年末まで移行期間に入ります。この間にEUとの通商協定(FTAやEPA)を結ぶ必要があります。しかし、双方の議会での承認手続きを考えると来年6月末までには通商協定案が定められる必要があり、あと半年しか時間がありません。通常、この規模の通商協定を結ぶ場合には数年がかりの作業となる場合も少なくないだけに、あまりに時間がありません。ジョンソン首相は移行期間の延長は行わないと明言しているだけに、新たな頭痛の種となりかねません。また、通商協定以外にも外交や安全保障、犯罪人引渡し協定など様々な分野に渡って協定を策定する必要があり、離脱したからといってすぐに落ち着くものでもないでしょう。



また、ジョンソン首相はEU以外でもあらゆる国々と積極的に通商協定を結ぶ姿勢を見せており、そう遠くないうちに日本との貿易協定交渉も始まる可能性があります。日英間でFTAやEPAを結ぶほかに注目を集めているのがTPP(環太平洋経済連携協定)です。メイ政権時代から離脱後の貿易関係の1つとしてイギリス政府はTPPに関心を示しており、日本も情報提供などを実施していました。イギリスにとってもアジアや南米、オセアニアに手っ取り早くアクセスする手段として魅力的です。13日午後には安倍首相が内外情勢調査会での講演で「ジョンソン首相のもと、TPPに英国が参加なら心から歓迎」と話しており、イギリスのTPP加入は現実性のない話ではなくなっています
安全保障分野でも中国の影響力拡大などに対して関心を持っており、特に香港問題ではかつて統治していた関係から様々な発言が出ています。こうした問題に対しても、独自の言動が出てくる可能性があります。



イギリスはEU離脱で1年、もしかしたら2~3年くらいは経済や社会で混乱が発生するかもしれません。しかし、英国はかつて世界の海を支配した国であり、現在も旧植民地国などに少なからず影響力を及ぼしています。したたかな外交を見せるときもあり、決して弱い国ではありません。おそらくは数年すればそこから立ち直っていくでしょう。しかし、それまでには困難な道のりが続くことになるかもしれません。

(この内容は12月15日の生放送にて使用したテキストを再編集したものです)
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