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ブレクジットでみんなが勘違いしている5つの話 [アメリカ・ヨーロッパ・ロシア関係]

(この記事は今年6月29日に別のブログで上げた記事を再編集して掲載したものです)
7月23日、ボリス・ジョンソン前外相がジェレミー・ハント外相(当時)との保守党党首選の決戦投票(郵便による党員投票)に勝利。翌24日には英国首相となった。​​​ブレクジット(イギリスのEU離脱)は今年10月末まで離脱期限が延期された状態​​​にあり、英国内外の政治情勢に何が起こるかはわからない情勢だ。その中で離脱強硬派として知られるボリス・ジョンソン氏が首相となっただけに先行きは非常に見通しづらい。そこで、離脱期限まで2か月を切ろうとしている今、ブレクジットで多くの人が勘違いしていると思われることを紹介していきたい。


①離脱をやめるためには国民投票が絶対に必要。何より他の加盟国が残留を承認するわけがない。
→​昨年12月10日にEU法について排他的に判断する権限を有する欧州司法裁判所が加盟国の同意なしにイギリスはEUからの離脱表明を取り消せるとの判断を下している。​つまり、イギリスはドイツやフランスが嫌がったとしても、EUに残ろうと思えば残れる。ただし、離脱取り消しの決定は「民主主義的なプロセス」に基づかなくてはならないとされており、英国の場合は議会での承認が必要となる。逆に言えば、少なくともEU法上は離脱取り消しには国民投票は必要とされていない。
しかし、英国内の問題としてイギリスは2016年に国民投票を実施して離脱を決めた以上、仮に離脱をやめるとなった場合には国民投票の実施せざるを得ないと思われる。


②保守党が離脱推進派で労働党が残留派
→実はそうでもない。保守党にも労働党にも離脱派、残留派どちらもいるのが事態を複雑にしている

そもそも、国民投票で離脱が決定した以上、保守党だろうが労働党だろうが離脱する方向で話を進めなくてはならないのが現状だ。テリーザ・メイ前首相も2016年の国民投票の際には残留派の先陣を切っていた。労働党もこのときは残留を支持していたが、離脱決定後に実施された2017年総選挙でのマニフェストで、国民投票の結果を受け入れると記載している。
こうした中、今年2月には労働党のEU残留派議員7人が離党する事態も発生している。このため、2月末にジェレミー・コービン労働党党首が政権を奪取した場合には国民投票の再実施を党内で検討していると明らかにした。ただ、実際に労働党として国民投票の再実施を打ち出せるかどうかは不透明な情勢だ。

なぜこうした複雑な事態に陥っているかというと、1980年代までは労働党で離脱推進派が多数を占めていたことがある。イギリスでは1973年にエドワード・ヒース内閣(保守党)の時代に当時のEEC(欧州経済共同体)に加盟している。しかし、1974年に労働党が政権を奪取すると、党内でEECへの加盟に関して賛否両論が巻き起こったため、当時のハロルド・ウィルソン政権は1975年に国民投票を実施。このときはこのときは賛成67.2%でEEC残留が決定している。ちなみに、このとき離脱推進を訴えていた1人がジェレミー・コービン氏である。

その後、政権が1979年に政権が保守党へと移り、マーガレット・サッチャーが首相に就任する。サッチャー首相は欧州統合への参加には消極的ではあったが、欧州統合の推進そのものには賛成している。その後のジョン・メージャー首相は1991年にマーストリヒト条約(欧州連合条約)が締結された際には、イギリスを通貨条項(のちのユーロ導入)から除外する規定を盛り込むことに成功する。しかし、翌年の批准作業では党内反対派に加えて、貴族院議員となっていたマーガレット・サッチャー前首相が国民投票実施を求めるなど保守党内は非常に混乱する。しかし、どうにか批准(労働党は棄権している)に成功している。

1997年に労働党が政権を奪還し、トニー・ブレアが首相に就任すると、いわゆる第三の道路線(経済政策を市場経済路線に転換)を打ち出す。この中で欧州統合への積極的な姿勢を見せるものの、欧州憲法条約の批准に関しては国民投票の実施(結局は実施せず)を打ち出して消極的な姿勢も見せている。しかし、2008年のリスボン条約については国民投票を実施せずに批准している。その後、2010年に保守党が政権に返り咲き、デーヴィット・キャメロン政権が成立。すると、EU離脱の是非を問う国民投票の実施を求める声が保守党内を中心に起こり、2015年総選挙のマニフェストに国民投票の実施が盛り込まれ、2016年の国民投票実施、そして離脱決定に至っている。

こうした経緯を見てもわかるように、保守党・労働党双方の政権で欧州統合の枠組みへの参加が進んできた一方で、党内反対派の激しい抵抗にあってきた。保守党は国家主権の観点から反対派がおり、労働党も主に労働組合を支持基盤とする伝統的支持者を中心に東欧諸国からの移民流入による賃金下落の観点から反対派が存在している。このため、「保守党が離脱推進派で労働党が残留派」と単純に割り切れないのが実情だ。


③今年10月末までに国民投票がもう1度実現する
→かなり難しい。そもそも②で述べたように再度の国民投票の実施は仮に保守党と労働党が協力して、国民投票の関連法案成立を目指したとしても、それぞれの党内反対派の抵抗にあう可能性が高い。また、労働党はそもそも早期の解散総選挙を求めており、協力するシナリオ自体が考えづらい。さらに、仮に法案が成立できたとしても、国民投票法の規定により、最低でも10週間は必要と言われている。つまり、10月末までに国民投票を実施しようとした場合、遅くても今年8月中旬までには関連法案が成立していなくてはならない。しかし、それはあまりにも時間がなさすぎる


④国民投票が実施されれば残留派が勝利する
→そもそも2016年に国民投票を実施した際ですら離脱派が勝利するとは誰も予想していなかった。また、今年5月末に実施された欧州議会議員選では、保守党や労働党を抑えて離脱推進を訴えるブレクジット党が英国内で最も多くの議席を獲得した。こうした経緯を考えると、2度目の国民投票が実施された場合に残留派が勝つという楽観的な見方は必ずしもできない。



⑤「合意なき離脱」は起こらない
→これも④と同じで楽観的な見方はできない。今年3月末に合意なき離脱に反対する決議が英国議会で実施されている。しかし、北アイルランドに関する規定で労働党や保守党内離脱推進派の抵抗により離脱協定案が2度に渡った否決されている現状がある。ボリス・ジョンソン首相は「合意なき離脱もありえる」と話しており、合意なき離脱も辞さないという姿勢。情勢次第では決してありえないシナリオではないと思われる。そうなると、英国とEUの間での経済取引や世界経済への影響は想像がつかない。

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