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トランプ大統領のグリーンランド買収発言、決して突飛な話ではない [アメリカ・ヨーロッパ・ロシア関係]

トランプ大統領、グリーンランド買収構想認める

先日、トランプ大統領が突然発表したデンマーク領グリーンランドの買収構想。これに対して、デンマーク政府やグリーンランド自治政府は反発を示している。

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今回のトランプ大統領の構想は突拍子もない発言と見られているが、実はそうでもない。米国がグリーンランド買収構想を示したのは今回が初めてではなく、1946年に当時のハリー・S・トルーマン大統領もグリーンランドの買収に乗り出したことがある。現在もグリーンランドにはチューレ空軍基地という地球上最北の米軍基地が存在しており、米国にとって戦略上重要な拠点であることを伺わせる。


グリーンランドは大西洋と北極海にまたがる場所にあり、大部分が氷で覆われた約217万平方キロメートルの島。人口は約5万6000人で、大部分がカラーリット(カナダでいうとこのイヌイット)という場所だ。もともとはデンマークの植民地だったが、1979年に自治政府が発足して自治権を獲得しており、現在でも独立を求める声も少なくはない。

米国とグリーンランドの直接的な関わりは第二次世界大戦中に遡る。1940年にデンマークがナチス・ドイツに占領されると、当時駐米デンマーク大使であったヘンリック・カウフマン氏が本国の了承を得ずにコーデル・ハル米国務長官とグリーンランドへの米軍駐留を認める協定に調印した。米国としては豊富な鉱物資源があり、北米大陸にも近いグリーンランドがナチス・ドイツの手中に収まってしまうのを避けたかったため、この協定の調印を急いだ。1940年4月9日にこの協定が締結されると、米国は4月12日にはグリーンランドへ進駐し、チューレ空軍基地や気象観測所などの軍事拠点の設営を進めた。第二次世界大戦後、米国は独立を回復したデンマーク政府と改めてグリーンランドの使用に関する協定を締結しており、現在まで米軍基地が存在している。


<グリーンランドとチューレ空軍基地の位置関係>
グリーンランド改.jpg

米国にとってグリーンランドが何故重要かは、上記地図(グーグルマップより一部を抜き取りました)を見るとわかりやすい。北米とソ連の中間地点にグリーンランドは位置している。チューレ空軍基地は第二次世界大戦中は、欧州への物資輸送の際の中継拠点としての機能しかなかった。しかし、戦後東西冷戦が始まると、ソ連との核戦争に備えた拠点として核兵器を搭載したB-52戦略爆撃機の拠点となった。一時期はソ連からの先制核攻撃に備えて、北極海上空を核兵器を搭載したB-52が常時飛行していた。こうしたなかで、1968年1月21日には、4発の水爆を搭載したB-52が上空で火災を起こして基地近くの海氷上に墜落。核弾頭が破損して大規模な放射能汚染が発生しており、その影響は現在も残っている。


現在では、基地の規模も縮小しており、任務も弾道ミサイルの警戒監視任務や人工衛星の追跡に留まっている。ではなぜ、トランプ大統領は今になってグリーンランドの買収話を持ち出したのか。


そこには、いくつかの要因が考えられる。1つは、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効だ。ロシアの新型ミサイル開発や中国の核戦力充実に伴い、トランプ大統領は今年2月1日にロシアに対してINF全廃条約の破棄を通告し、半年が経過したので今月2日に失効した。ウクライナやシリアなど様々な外交問題で米ロの対立が深まるなかで、ロシアの新たな脅威に対抗する手段の充実を模索している米国としては、グリーンランドを正式に自国領とすることで、ミサイル防衛をはじめロシアに対する戦略的優位を確保する面で積極的に活用したいとの思惑を持っているとみられる。


もう1つ要因として考えられるのは、北極海航路だ。気候変動によって氷に覆われていた北極海は通航が可能な状態となっており、ロシアや中国が北極海航路の開拓に乗り出している。アジアと欧州の航路がマラッカ海峡→インド洋→地中海、と進む現在のルートに比べると短縮できることが期待されている。
ただ、これは米国にとって看過できない側面もある。先程のマラッカ海峡やインド洋、地中海は常に米国の艦隊がいるエリアであり、米軍拠点も多い。そこが、米国の強みでもあるが、中露の影響力が強い北極海航路が充実すれば、米国に気づかれずに中露が兵力や軍事物資をやり取りできる可能性が出てしまう。

実際、グリーンランドも中国が自治政府に対して空港整備プロジェクトや地下資源開発を持ちかけており、米国にとっては目と鼻の先で中国の影響力が拡大することを座視することはできない。こうした観点から北極海航路に楔を打ち込むとともに、目と鼻の先にあるグリーンランドで中露の影響力が拡大しないよういっそのこと米国領にしてしまおうと考えても不思議な話ではない。


最初に触れた通り、デンマーク政府もグリーンランド自治政府もトランプ大統領の買収発言を一笑に付しており、グリーンランドが米国領になる可能性はゼロに等しい。しかし、その背景には対中露という米国の安全保障問題があり、さらなる対策を急く中で出てきた構想だということは把握しておくべきだと思う。

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