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トランプ大統領は何故、ソレイマニ司令官の暗殺を決断したのか(1) [中東・イスラエル関係]

遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。


さて、新年早々世界に衝撃を与えるニュースが出てから3週間近くが経過しました。
1月3日、米軍はバグダッド国際空港で無人攻撃機によるミサイル(ロケット弾?)攻撃を実施。イラン革命防衛隊コッズ部隊司令官ガーセム・ソレイマニ氏「カタイブ・ヒズボラ」最高指導者ムハンディス氏などが死亡しました。ソレイマニ氏がバグダッドに到着したばかりで、ムハンディス氏とともに車両に乗って移動しようとしたタイミングを狙われた、とされています。同日、トランプ大統領は「米国兵士やその関係者を狙ったテロ攻撃が計画されており、それを阻止するため」と攻撃の正当性を主張します。一方、イランではハメネイ師などが報復を宣言し、緊張が高まりました。


その後、1月8日に米軍やNATO加盟国の兵士などが駐留しているイラクのアル=アサド空軍基地にイランが弾道ミサイル攻撃を実施。米軍やNATOの兵士には被害がなかったものの、イラク兵に死傷者が多数出ました。その後、トランプ大統領はこの記事を執筆している時点では反撃を実施しておらず、イラン側も目立った軍事行動はとっていません。


この一件を理解するためには「ソレイマニ氏はイラクで何をしていたのか?」を知る必要があります。そもそも、彼が指揮官を務めていたコッズ部隊(ゴドス、クッズなど呼ばれ方はバラバラ)はイラン革命防衛隊の対外工作機関です。日本国内の報道では「精鋭部隊」と言われていますが、そういった特殊部隊のような組織ではないとされています。中東や北アフリカでの対米テロへの関与が指摘されており、日本では1991年7月11日に発生した悪魔の詩訳者殺人事件への関与が疑われています。シリアのアサド政権、レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派勢力などへの支援を実施し、シリア内戦では反体制派支配地域での非人道的行為への介入も疑われています。

ソレイマニ氏自身は1979年のイラン・イスラム革命において活躍。革命防衛隊に参加後はイラン・イラク戦争などで戦功を挙げて出世していきます。イラン最高指導者ハメネイ氏の信頼も篤く、実質的な革命防衛隊のNo.2とも言われる人物でした。他方、米国ではイラン国内での言論弾圧、シリアでの虐殺への関与、一連の対米テロ活動で米国のテロ関係者リストに記載されています。

ただ、9.11同時多発テロ後のアフガニスタン戦争やイラク戦争では、コッズ部隊がネットワークを持っていたシーア派系武装勢力の協力を得るために、アメリカとコッズ部隊が協力関係を結んでいた時期もあり、まさに「敵の敵は味方」で敵対一辺倒の関係ではなかったようです。イラク戦争後にイラク国内での宗派間対立が激化するとともに、米国側とコッズ部隊との関係は悪化、ソレイマニ氏もテロ関係者リスト入りすることになります。しかし、ブッシュ、オバマ両大統領ともこれまで幾度となくソレイマニ氏暗殺が俎上に載っても、実行することはありませんでした。それは、過去には協力関係があった点やハメネイ師の信頼も篤かったことから、「ソレイマニ氏暗殺はイランとの関係の決定的な破綻を招く」と見ていたからです。


最近ではISとの戦いで協力関係にあったと言われています。ISとの戦いではイラク国内のシーア派武装勢力も参戦し、アメリカと事実上の協力関係をもっていました。その1つがカタイブ・ヒズボラでした。カタイブ・ヒズボラは2007年後半にイラクのシーア派武装勢力が駐留する多国籍軍の排除を目指して合併・結成された武装勢力です。イランの革命防衛隊やレバノンのヒズボラから支援と戦闘訓練を受けて勢力を拡大し、09年に米国はこの組織とムハンディス氏を制裁対象になっています。米国はムハンディス氏を「ソレイマニ氏のイラクにおける副官」とすら見ていました。ISとの戦いが始まると、他のシーア派武装勢力と連合体「人民動員隊」を結成し、イラク治安部隊などとともに戦っています。人民動員隊は現在3万人以上の兵力を有するとされており、ISとの戦いがほぼ終息した昨年からは米軍などイラク国内の外国駐留軍に激しい批判を向けていました。



こうした微妙なバランスのなかで、ソレイマニ氏暗殺を決断したトランプ大統領。そもそもトランプ大統領は16年大統領選のころから一貫して中東方面での米軍の縮小を主張しています。昨年6月20日に革命防衛隊が米軍の無人機を撃墜した際には、報復攻撃を決断するも開始直前に撤回し。対イラン軍事攻撃を強硬に主張するボルトン大統領補佐官(当時)との対立が深まる要因となり、ボルトン氏はのちに辞任しています。そのトランプ大統領が何故下手をするとイランとの全面戦争になりかねない決断を下すに至ったのか、それは昨年10~12月に起こったイラクでの騒乱に原因がありました。


(2)へ続く



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